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オフコース・小田和正ー音楽と建築と思想ー

  1. architecture

数回(少なくとも2回)にわたって、オフコース・小田和正の音楽と建築と思想についてラフにではありますが、書いてみようと思います。また、僕が設計している時に思っていることも付随して書いてみようと思います。

小田和正の建築

小田和正(以下、小田さん)は大学・大学院と建築を学んでいましたが、建築家の道には進まずに音楽を選びました。一級建築士の資格も持っていない、当然実作もありません。そこで学生時代の卒業設計・修士設計(一部ですが)、雑誌・インタビュー・ネットからの情報をもとに小田さんの建築観を探ろうと思います。そこから小田さんの音楽と建築の共通点が見えてくるかもしれません。(昔、何かで読んだ記憶も含めて記述しますので、曖昧なところもあると思います)

小田和正-卒業設計・修士設計・修士論文-

小田さんは横浜の聖光学院高校卒業後に東北大学工学部建築学科に入学し、そこで建築を学んでいます。当時の東北大学の研究室の構成がどうなっていたかはわかりませんが、卒業設計をしていることから意匠・建築計画・都市計画系の研究室に所属していたのだと思います。(大学によっては卒業設計・卒業論文両方課せられているケースもありますので断定できませんが。またネット上だと都市計画専攻だったという情報もあります。)学生時代はフランク・ロイド・ライトの建築に興味があったようです。ライトはミース・ファン・デル・ローエ、ル・コルビジェと並ぶ近代建築三大巨匠のひとりです。プレーリーハウスという水平に大きく伸びた屋根の下に大らかな連続性のある空間が広がっている住宅やホテル・美術館などを多く設計しています。日本でも旧帝国ホテルの設計で有名ですが、小田さんが特に興味を抱いたのはライトの建築そのものよりも絵画のようなドローイングだったのではないかと思います。東北大学時には設計課題の図面は青焼図面だったようです。きっとライトのドローイングを見て、水彩で着色する手法を真似たのではないでしょうか。そうしたプレゼンテーションをすることによって、自らが持っている建築のイメージをより的確に表現したいと思っていたのでしょう。

fig.1 F.L.ライト

学部の卒業設計は「ART VILLAGE」という宿泊施設のあるアート・ミュージックホールコンプレックスでした。「ART VILLAGE」と聞いて思い出すのが、詩人であり建築家、立原道造の卒業設計「浅間山麓に位する芸術家コロニイの建築群」です。立原道造のドローイングも水彩で着色されている場合が多く、もしかしたら小田さんはそれも思い描いていたかもしれません。

fig.2 立原道造

fig.3 立原道造のスケッチ

卒業設計のイメージは”かつてヤマハが経営していた「合歓の郷」(三重県志摩市)にあるような、自然豊かな場所に音楽ホールをメインに美術なども楽しめ、そこで合宿もできる複合型施設にしようと。敷地は伊豆を想定していたかな。”(※1)と語っています。2011年に東北大学で編集された「東北大学建築学科 創立60周年記念 卒業設計作品集」にBLOCK PLANとパースが2枚掲載されています。(著作権の関係で図面は掲載できません)BLOCK PLANには全体の配置と<内部への作用>・<外部への作用>というふたつのコンセプトが描かれています。コンセプトを見てみましょう。マイクロフィルムからの転写なので読み取れない部分もありますが、

”<内部への作用> ARTISTのLEVEL UP・ARTに内在する矛盾解消への底辺的活動の力・方向を高める場を与える.   

<外部への作用>LEVEL UPされたARTを鑑賞することにより、CREATEという行為に対する大衆の評価基準をUPし、同時にその行為自体を身近に感じさせること、更に支離滅裂なる現代の日本の大衆の気質を根本から変える契機を与える.これらは内部への作用へ還元される.”

と書いてあるようです。”ARTに内在する矛盾”が自己に内在する創作活動の葛藤を意味するのか、ARTの持っている経済的な側面と純粋な自己発露の芸術活動との矛盾を指すのかは不明ですが、要するに、多くのARTISTがこの場に集合することによってお互いを刺激しあい、芸術の質のLEVEL UPを目指す空間であること、そこで行われる芸術活動を鑑賞することによって、芸術に対する大衆の意識(文化への意識)の向上がはかられる、そして<外部への作用><内部への作用>はお互いに影響しあい、スパイラル状に日本の芸術文化の向上に寄与する、そんな建築群である、ということなのでしょう。コンセプト内で使われている言葉、”内在”・”大衆”などに60年代後半の時代の空気を感じます。このコンセプトは小田さんが昔からたびたびインタビューで語っていた日本人の文化意識の低さを指摘する言葉と重なります。<内部への作用>は学生が課題や卒業設計でたびたび掲げるコンセプトでありふれた感じがします。ARTISTが集まればそこで相互作用が発生し、芸術の質が高まるというのは偶然性に頼るもので、必然ではありません。少し弱い感じがします。しかしそこに<外部への作用>という大衆の「文化への意識向上」という大きな意図を絡め、それらの相互作用によって「日本全体の文化向上を目指す」というコンセプトへ飛躍しているのは、小田和正という学生の日本への危機意識として大いに評価できると思います。建築家は社会に対する危機意識やどうすれば社会を変革していかれるかということに実は大きな関心を持っています。僕も小さな住宅を設計する時でも、クライアントの要望を聞くことはもちろんですが、更にその住宅がそこに存在する意味を考え、住宅に住むということを一度解体して再構築し、社会的に意義があるかを常に意識しています。(そんな小難しいことは、クライアントにはあまり話しませんが。)

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黒川浩之-Kurokawa Hiroyuki-
株式会社FAR EAST 代表取締役
一級建築士
1968年生まれ 東京都出身
横浜国立大学大学院修了

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