今回は、以前から書こうとしていた小田さんの声について書きます。納得できない方もいるかもしれませんが、僕が今まで自分で歌ってきた経験も含めての考察です。
結論から言うと、小田さんの歌声は地声ではない。正確に言えば、メインの歌い方はファルセットを喉の奥を広げずに絞って(シャウトと言っても良い)、かつ息を多く吐きながら発声する、ソロになってから(もっと詳しく言えば「クリスマスの約束」で他のアーティストの曲を歌うようになってから)低い音は地声で歌っている、ということです。最近ではこの発声方法はミドルボイスとかミックスボイスとか言うようです。小田さんは大学時に合唱部でしたが、僕も大学では合唱部でした。その時にプロのボイストレーナーに指導してもらうのですが、地声で高い方へ歌っていって、地声が出なくなるぎりぎりのところでファルセットに切り替えていくというトレーニングをします。小田さんはその切り替えが非常にスムーズに移行します。(または地声で歌う部分とファルセットで歌う部分を切り替えている時もあります。)また、小田さんはノンビブラートで歌います。ファルセットでビブラートをかけるには喉を微妙に動かす必要があるのですが、結構難しい。ストレートに発声する方がはるかに楽です。これもファルセットで歌っているという根拠のひとつです。オフコースの時は基本的にすべての音をファルセットで歌っていたと思います。特に初期は合唱的な歌い方に近い。よって、全体的に細い声で、低い音は弱く、出しづらい感じに聞こえます。合唱部のテノールで軽く声を出しながら高い音を出せる人がいます。その人に聞いたことはないですが、多分そんな感じで小田さんはファルセットを操っているのだと思います。発声方法は、基本的にはカウンターテナーと同じです。ただ、クラシックの場合は喉の奥を広げて口腔全体を大きくすることにより、声を響かせる。それに対して、マイクで声を拾うことができるポップスは、喉を絞めて上顎に声を当てるように歌う。その違いがあります。小田さんはファルセットを使わないと言われますが、すでにファルセットなので当然なのです。その様子が良くわかるのは、「クリスマスの約束」の中で他のアーティストの歌を練習している場面。軽く歌っているのですが、それはファルセットでの発声です。また、NHK放映「over」のレコーディングドキュメント「若い広場」の中で、小田さんが喉を痛めて歌えなくなった場面。この中で、「愛の中へ」のヴォーカル録りをしているのですが、声が引っかからずに「歌っている感じがしない」という箇所があります。それでも歌ってみているのですが、そのフレーズの高い方はファルセットだけれど声が思うように出ていなくて、低い方は地声に戻して歌っています。その他に特にいわゆるファルセットっぽく歌っている(喉の奥を開いて歌っている)曲もあります。1982年の「over」のコンサートでの「夜はふたりで」のバックコーラス、1986年のソロアルバム「K.ODA」の「切ない愛のうたをきかせて」(後半の主旋律のバックコーラス)でも聞くことができます。最近では「自己ベスト-2」の「生まれ来る子供たちのために」ですね。これはコーラスではなく、主旋律で使用しています。この場合はたぶんレコーディングのヴォーカル録りの時に一度区切って歌っているのではないかと思いますが、喉の奥を開いて軽く歌う感じです。以上、僕の経験を含めた考察でした。この歌い方は小田さんにとっては、あまりにも普通の感覚で、ファルセットとして意識していないのではないかなと思っています。
※4/14に投稿した内容を再投稿しました。
今回のブログの内容とは関係ないですが、2021年2月3日の建設通信新聞に小田さんと建築史家・建築家の藤森照信さんとの対談が載りました(下記リンクから今も読めるようです)。この対談が行われるにあたり、記者の方から以前書いたブログの記事について僕の事務所に問い合わせがあり、少し電話でお話をしたことがありました。記事の内容には全く反映されていませんでしたが、僕がブログに書いたものを小田さんと藤森さんにも予め渡して読んでいただいたそうです。なんとも恥ずかしい限りです。今回のブログをたぶん小田さんが読むことはないと思いますが、もし読んだら、勝手なことを書きやがって・・・と思われるんだろうなと思いながら、今回は終了です。
2021年2月3日建設通信新聞
https://www.kensetsunews.com/web-kan/536153
下記記事も宜しければご覧ください。
https://blog-archi-fareast.jp/2019/02/17/オフコース・小田和正の音楽と建築のアナロジー1/
https://blog-archi-fareast.jp/2018/10/30/オフコース・小田和正ー音楽と建築と思想ー/